エリート上司の過保護な独占愛
出汁のいい匂いが、あたりに漂っている。
ここは駅前にあるキッチンスタジオ。沙衣と絵美は仕事帰りに料理教室に参加していた。
赤いギンガムチェックのエプロンをつけた、同年代の講師がカウンターで数人の生徒に囲まれている。五人一組に先生がひとりついてレッスンを受ける。
沙衣と絵美のほかに、三人の生徒が一生懸命先生の話を聞いていた。
「ねぇ、沙衣。この〝いちょう切り〟って何?」
こっそり沙衣に尋ねたつもりの絵美だったが、講師にその声が聞こえていたようで
「大丈夫。今から説明しますからね」と言われた。
今回は絵美に合わせて基礎コースに参加している。家庭料理の定番の鳥の照り焼きに、白和え、千草焼き、それに豚汁といったごくよく見るメニューだ。
しかしレシピの説明を見ると、豚汁には豆乳が使われていたり、千草焼きは普通の卵焼きと違い、鳥のひき肉やひじきなども入って栄養価も高い。普段簡単な料理しかしない沙衣にも、たくさん学ぶことがありそうだ。
「こちら、お鍋の中をちょっと見てください。プツプツと小さな気泡が沸き上がってくるのがサインです」
鍋の中を五人全員が覗き込む。と、うっかり他の生徒にぶつかってしまった。
「あ、すみません……って、あの……」
実はその女性のことは、レッスンが始まる前から気になっていた。普段なら見知らぬ人に声をかけることはないのだが、どうしても気になった沙衣は講師の目を盗んで小声で声をかけてみる。
「ユニヴェールの、藤本さんじゃないですか?」
沙衣の言葉に、その女性は軽く目を見開いて驚いた顔をした。その表情から間違いないと悟った沙衣は、自分の名前を名乗る。
「私は、ミカドの原料部で営業補佐をしている本城です。二年前に一度弊社でお会いして以降、お電話では何度か――」
「あーーー!」
ここは駅前にあるキッチンスタジオ。沙衣と絵美は仕事帰りに料理教室に参加していた。
赤いギンガムチェックのエプロンをつけた、同年代の講師がカウンターで数人の生徒に囲まれている。五人一組に先生がひとりついてレッスンを受ける。
沙衣と絵美のほかに、三人の生徒が一生懸命先生の話を聞いていた。
「ねぇ、沙衣。この〝いちょう切り〟って何?」
こっそり沙衣に尋ねたつもりの絵美だったが、講師にその声が聞こえていたようで
「大丈夫。今から説明しますからね」と言われた。
今回は絵美に合わせて基礎コースに参加している。家庭料理の定番の鳥の照り焼きに、白和え、千草焼き、それに豚汁といったごくよく見るメニューだ。
しかしレシピの説明を見ると、豚汁には豆乳が使われていたり、千草焼きは普通の卵焼きと違い、鳥のひき肉やひじきなども入って栄養価も高い。普段簡単な料理しかしない沙衣にも、たくさん学ぶことがありそうだ。
「こちら、お鍋の中をちょっと見てください。プツプツと小さな気泡が沸き上がってくるのがサインです」
鍋の中を五人全員が覗き込む。と、うっかり他の生徒にぶつかってしまった。
「あ、すみません……って、あの……」
実はその女性のことは、レッスンが始まる前から気になっていた。普段なら見知らぬ人に声をかけることはないのだが、どうしても気になった沙衣は講師の目を盗んで小声で声をかけてみる。
「ユニヴェールの、藤本さんじゃないですか?」
沙衣の言葉に、その女性は軽く目を見開いて驚いた顔をした。その表情から間違いないと悟った沙衣は、自分の名前を名乗る。
「私は、ミカドの原料部で営業補佐をしている本城です。二年前に一度弊社でお会いして以降、お電話では何度か――」
「あーーー!」