エリート上司の過保護な独占愛
 やっといろいろ繋がったのか、藤本が笑顔になってうんうんとうなずいた。しかしその声が若干大きかったのか、講師とほかの生徒の視線がこちらに向いた。

「すみません」

 ふたりで軽く頭をさげると、すぐにレッスンは再開された。 

「では、そこのおふたりがこちらのお野菜を切る担当をしてください。で、そちらの方は、こっちの材料を準備してくださいね。千草焼きはご自身で召し上がっていただくのを、ひとりひとつ作っていただきますからね」

 指示に従って作業に取り掛かる。沙衣は絵美と一緒に野菜を切ることになった。

「さ、沙衣……とにかく、ちょっとやってみせて」

 肘でつつかれて沙衣はニンジンをレシピ通りのいちょう切りにした。

「ほほう……これがいちょう切りね」

 沙衣が切ったニンジンを、絵美がまじまじと見ていると講師がこちらに来た。

「濱中さん、関心してないでやりましょうね。まずは包丁の持ち方からやっていきましょう」

「はいっ。ど素人ですので、よろしくおねがいします」

「では、他の方は今自分がやっている作業が終わり次第、手分けして洗い物をしてください」

 絵美を残して他のメンバーは、洗い物を持ちシンクに移動した。そしてそれぞれ洗い物を始めた。

「本城さん……それ洗い終わったの拭こうか?」

「あ、藤本さん。お願いします」

 ふたり並んでで手を動かしながら話をする。

「まさかこんなところで、ミカドの人と鉢合わせするなんて、思ってもみなかったな」

「私もです。いつもお世話になっております」

 沙衣は泡だらけの手のまま、藤本に頭を下げた。

「いえいえ、こちらこそ。でもよく私のことわかったわね。一度しか会ったことなかったはずなのに」

「私、顔とお名前を覚えるの得意なんです。それくらいしか、仕事の取柄はないんですけど」

 肩をすくめた沙衣を見て、藤本がにっこりと笑う。
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