エリート上司の過保護な独占愛
「お疲れ様です」

「あれ、今週って沙衣ちゃんが担当だったっけ?」

(あれ? 今、〝沙衣ちゃん〟って呼んだ?)

 違和感を覚えたけれど、深く追求するのも変な気がしたのでそのまま聞き流す。

「いえ、手が空いていたんで代わりに来たんです。片付けしてしまいますね」

「あぁ。いつもありがとう。ところでさ、再来週のバーベキュー、沙衣ちゃんも来るだろう?」

 そういえば昨日回覧があった。けれど沙衣は絵美が参加するかどうか確認をしてから返事をするつもりだ。社内で近場の飲み会ならひとりで参加してもまだなとかなるが、遠出となるとハードルが高い。

 しかし、今までは一度もこうやって誘われたことなどなかったのに、いったいどういう風の吹きまわしだろうか。

「沙衣ちゃん、こういうのあまり進んで参加しないでしょ? 今年は俺も行くし、絶対来てほしい」

 どうして大迫が参加するからといって、沙衣が参加しなくてはいけないのだろうか?

 いまいち相手の言っていることが理解できず「はぁ」とあいまいにうなずくと、それを肯定の意味ととった大迫が声をあげた。

「やった、当日は俺が車出す予定だから、よかったら――」

――コンコンッ

 開いていたドアを誰かがノックする音がして振り向くと、そこには裕貴が立っていた。どうやらドイツとの電話でのやり取りが終わったようだ。

「大迫、電話入ってるからすぐに席に戻って」

「えっ、マジっすか? わざわざありがとうございます」

 資料をかき集めた大迫が「じゃあ、沙衣ちゃん。また後で」と沙衣に告げて、応接室を出ていった。

 沙衣も片付けが終わったので、部屋の電気を消して外に出ようとした。しかし腕をつかまれて足を止める。

「えっ……天瀬課長?」

 トレーの上の茶器がガチャンと音を立てた。慌ててバランスをとって落とさないようにした。
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