エリート上司の過保護な独占愛
「ありがとうございました~」

 店員の声に見送られて、一件目のカフェを後にした。

「どう思う?」

「ん……雰囲気はよかったですけど、少し狭すぎじゃないですか?」

「そうだな。俺もそれは感じた。できればふたりがどの席からも見える方がいいよな」

「はい」

 次の店に向かいながら、お互いの意見を交わす。最初こそ緊張をしていたが、慎吾と絵美に喜んでもらいたいという同じ目的のために、色々と話をしているうちに緊張もとけてきた。なによりも裕貴が、きちんと紗衣の意見も尊重してくれる。

 それだけではない、歩く歩幅もあわせてくれ、人混みでは人にぶつからないようにそっとかばってくれた。

 その気遣いが、紗衣にとってはうれしく、そして心の中にある恋心をくすぐった。

 ほどなくして二件目に到着する。

 ちょうど空いたばかりの席に案内されて、裕貴が紗衣に向かって差し出してくれたメニューを見た。

「もう一軒ありますし、飲み物だけにしたほうがいいですよね?」

 そうはいいつつも、目は色とりどりのケーキの写真から離れない。

「まぁ、少し時間あけて行けばいいし、食べたいなら食べたらいいよ。ほら、どれにする?」

 結局チーズケーキと、ロイヤルミルクティーを選ぶ。裕貴が店員に注文をしてくれると、店内は混雑しているにもかかわらずすぐに運ばれてきた。

 さっきまで我慢しようと思っていたにも関わらず、目の前に運ばれてきたケーキに顔が綻ぶ。そんな彼女を見て裕貴もまた笑顔になった。

「本城は、コーヒーより紅茶派だな。いつも飲んでるイメージがある」

「どちらかと言えば。でもコーヒーも好きですよ。ただ、自宅近くの喫茶店にひとりでよく行くんですけど、そこの奥様が淹れてくれるロイヤルミルクティーがすごく美味しくて、マスターには『うちのメインはコーヒーだ!』なんてよく言われるんですけど」

「そうか、一度行ってみたいな」

『是非、ご一緒に!』と誘えばいい――そう思うけれど、自分から男性を誘ったことのない紗衣が咄嗟に行動できるわけもなく、口から出かかった言葉はミルクティーと一緒にごくんと飲み込んだ。
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