エリート上司の過保護な独占愛
 炊事場には女子社員がすでに集まっていた。

「もう、遅いっ!」

 絵美に怒られた紗衣は「ごめんなさい」と謝った。

 女子社員が集まり、おしゃべりに余念が無い。そんな女性の集まりの中で海外事業課の主婦歴十年の社員がその場を仕切っていた。

「一課で、そこのお野菜切ってもらえる?」

「はい」

 絵美と紗衣が返事をして、早速作業に取り掛かった。袖をまくってまずは野菜を水道で洗う。

「絵美さん、苦手ならお野菜私が切りますよ」

 しかしそんな申し出を絵美は断った。

「これでも結構上手くなったのよ。だから練習の成果を見て!」

 腕まくりをして、包丁を持ちやる気満々だ。

「わかりました。ではふたりで分担しましょう」

「そういえば、山下さんは?」

 今日は佑香も参加予定のはずだが、姿が見当たらない。

「どうしたんでしょうか? まぁ、とりあえず私たちだけでやってしまいましょう」

「そうね。待ってても仕方ないし」

 ふたりは分担して、野菜を切り始めた。絵美はところどころ危なっかしいと思う場面はあったが、料理教室の初日に包丁の使い方を聞いていた人とは同じ人物とは思えないほどの上達ぶりだった。この調子なら、三谷をギャフンと言わせる日も近いのではないかと思う。

 紗衣もできるだけ手早く作業を進める。乱切りにした野菜をボウルに入れて、そこに塩コショウと、オリーブオイルを振りかけておく。
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