エリート上司の過保護な独占愛
「紗衣、それ何してるの?」

「はい。こうやっておくと、お野菜が乾きにくいんです。焼くまで時間があると、表面が乾いちゃうから。いつも家で母がやってたんですよ」

野菜を絵美に見せて説明していると、背後から声が聞こえた。

「ふーん。いいアイディアですね」

 ふたりの会話に、いきなり佑香がやって来て加わった。

「山下さん、びっくりするから急に話しかけないで。それに今までどこに行ってたの?」

 責めるような絵美の言葉も、まったく気にしていないようだ。

「あたし、こういうのってぇ、苦手なんです。それに昨日ネイルサロン行ったばっかりなんでぇ」

 いつにもまして、鼻につくような声。絵美は不快感を顔にだして「わかったわかった」と彼女の言い訳を遮った。

「濱中さん、そんな怖い顔しないでくださいよぉ。悪いと思ったから佑香、運ぶだけでもしようと思ってきたのにぃ」

 唇を尖らせて見せる。

「じゃあ、山下さんみんなのところに運んでくれる?」

 あまり険悪になってもいけないと思い、紗衣が切った野菜を佑香に差し出した。

「はぁい。じゃあ先にあっちに行ってますから」

 両手で抱えるようにしてボウルを持つ佑香は、〝かわいい〟を理解しつくしているように思えた。

「もう、ほんとに逃げ足だけは早いんだからっ!」

 佑香が去ったあと、絵美が不満を露にした。そんな絵美をなだめつつも片づけをしていると、大迫が呼びに来た。

「そろそろはじめるから、みんな集まってっていってる」

 絵美と紗衣はのんびりしすぎたのか、他の課の人たちが使った場所は綺麗になっていた。

「とりあえず、乾杯だけして後で片づけることにしよう」

 絵美の言葉にうなずいて、紗衣も皆が集まる場所に移った。そこではすでに皆、缶ビールを手に持ち、部長の乾杯の発声を待っていた。
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