エリート上司の過保護な独占愛
 覚悟はしていた。けれど違った方向の驚きが紗衣を混乱させる。

(つき合うって、どこかに行くとかそういうことじゃなくて……)

 何か言わないといけないと思う。しかしびっくりして、喉が張り付いたようになり声がでない。

 驚いた表情の紗衣を見て、裕貴も焦りだす。

「いや、上司の立場でこんなことを言うのは間違ってると思う。だけど、もう本城が他の男たちに奪われそうになるのを、黙って見ているのは限界だ」

 裕貴が一歩紗衣に近づき、距離を縮めた。じっとふたり見つめ合ったまま。その目に嘘がないことはわかる。

「もう、いい上司はやめる。これからは男として本城に接していく。だから覚悟してほしい」

 そう言って、もう一歩近づいた。そして紗衣の左手を取る。

「俺に、愛される覚悟を――」

 ギュッと握られた手が、燃えるように熱い。彼の思いをひしひしと感じる。自分が思い焦がれていた相手からの、真剣な告白に胸が震えて声にならない。

 紗衣はただ必死で、コクコクとうなずくことしかできない。しかしその思いはちゃんと裕貴に伝わったようだ。

「よかった……」

 そうつぶやいた裕貴の手が、紗衣ひきよせた。気がつけば彼の胸に顔をうずめていた。いきなりの密着に、心臓がドキドキと大きな音を立てる。

「さっきも言ったけど、俺もう我慢しないから」

 頭上から聞こえる声は裕貴の声のはずなのに、いつもと違うように聞こえる。裕貴の手がそっと紗衣の顎にそえられると、ゆっくりと上を向かせた。
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