エリート上司の過保護な独占愛
「濱中の監視は思ったよりも厳しいな」

「課長が入社当時におっしゃっていた通り、本当に色々面倒をみてくれています」

 ゆっくりと皆のところに戻りながら話をする。

「でも、そろそろその立場、俺に譲ってもらわないと」

「え?」

「これからは、俺を一番に頼ってほしい。じゃないと、濱中に妬いてしまいそうだ」

 頭を掻きながら、少し照れた様子の裕貴を見て、かわいいなんて思ってしまう。こんなこと一度も思ったことがなかったのに、お互いの気持ちを通じ合わせた後、彼の新たな一面を知ることができた。

(こうやって……ゆっくり、恋人同士になっていくんだろうな)

 これから先の時間を、裕貴とともに歩めることがたまらなくうれしく感じた。

「ここからは、先に行くといい。皆に色々聞かれたら嫌だろう?」

 たしかにそういう場面でサラッとかわせる技術は紗衣にはない。

「はい、では。お先に」

 歩き出したものの、夢の中にいるような感覚の紗衣は、振り向いて裕貴の存在を確認してしまう。

 裕貴は紗衣に手を振って、それに応えてくれた。

 もう一度歩き出すと、今度は振り返らずに歩いた。こんなことを繰り返して時間が経ってしまえば、絵美が探しに来るかもしれない。

 ちゃんと絵美には、話をしたいと思うけれど自分の胸の中を整理する方が先だ。ドキドキする胸の鼓動をなんとか抑えながら、皆の元に戻った。

 鋭い絵美に「顔が赤い」と指摘された紗衣が、慌てふためくのを少し離れた場所で、裕貴が笑顔で見ていた。

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