エリート上司の過保護な独占愛
「おいおい、マジかよ。まぁ、確かに最近の本城の変身ぶりったら、ちょっとした事件だよな」

 どこにでもこういった下世話な会話をするもの一定数いるものだ。だから普段は気にしないようにしているけれど、紗衣の名前が出てきた途端それができなくなる。

 第三者に聞かれていることも、気づかずに大迫は尚も続けた。

「俺の紗衣ちゃんなんだから、手を出すなよ。帰りにはカップルになって帰るぞ」

「おい、断れたらどうするつもりなんだよ」

「大丈夫。沙衣ちゃんきっと押しに弱いはずだから。それに今までもアプローチしてきたけど、まったくイヤそうじゃなかったし」

 自信満々の大迫の言葉に、裕貴は怒りに似た感情が腹の奥からせりあがってくるのを感じた。

(彼女はそんな簡単な女じゃない。大迫なんかが本城の本当の良さを知るわけない)

 彼女が大迫に笑いかけている姿を想像して、胸がムカムカしてきた。

 では、自分ならどうなのか? 自問自答してみる。

(彼女の隣に立つのは、俺だ……)

 彼女への想いが、部下に対するそれとは違うことに気がついたのはつい最近だ。しかし今までも、ずっと彼女の頑張りを見守ってきた。彼女のペースを見ながら距離を縮めていくつもりだったのに、裕貴にとってはとんだ計算外だ。

 しかし大迫のあの調子から判断して、猶予はない。裕貴はタープの杭に木槌を思いっきり力強く打ち付けながら、彼女を自分のものにする決心をしていた。
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