エリート上司の過保護な独占愛
***

「……じょう、本城――」

 夢の中を漂っているなかで、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。しかし意思に反してなかなか瞼が開いてくれない。

「沙衣」

 短くそう呼び捨てられて、パチッと目が覚めた。

「やっと起きた。もうすぐマンションの近くだろ? 道、教えてくれる?」

 くすくすと笑う裕貴を見て、初めて自分が助手席で眠りこけていたのに気がついた。最初は緊張して手に変な汗をかいていたのに、まさか眠ってしまったなんて。

「すみません、運転してくださっていたのに、眠ってしまって」

「いいって。かわいい寝顔も見られたし」

「えっ!」

 沙衣が顔を赤くするのを見て、裕貴がおかしそうに肩を揺らした。

「なに、別にそれくらいいいだろ。ご褒美」

(私の寝顔の、どこがご褒美になるっていうの⁉)

 間抜けな顔をしていたに違いない。顔から火が噴き出しそうになったときに見慣れた風景が目の前に現れた。

「あの、このあたりで止まってください」

 一本入れば商店街へ出る道の、公園の脇に車を停めてもらう。道幅もあるので、ここなら少しの間の停車なら迷惑にならない。

「マンションまで送っていかなくていいのか?」

「すぐそこなんで」

 沙衣が指さしたほうに、マンションが見えた。ここから距離がそうないことを確認して裕貴も納得したようだ。

「あの、疲れているのに送ってくださってありがとうございました」

「いや。俺ももう少し一緒にいたかったから」

「……私すっかり眠ってしまって。ごめんなさい」

 もし起きていれば、色々と話ができたに違いない。ずっと上司と部下だったとはいえつき合い始めたばかりのふたりだ。お互いのことは知らないことの方が多い。

(せっかくのチャンスだったのに)

「そんなこと、気にするな。寝顔を見られてうれしかったっていうのはホント。だけど――」
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