エリート上司の過保護な独占愛
「んっ……んっう……」 

 言葉にならない、鼻にかかった声。まるで自分の声ではないようだ。

 初めてのことに戸惑う。けれど、嫌ではない。それよりむしろこうやって裕貴に欲してもらっていることが、沙衣の心をときめかせた。 

 宣言通り、狼になった裕貴の唇から解放されたころには、沙衣は息も絶え絶えだった。

「悪い……ここまでするつもりじゃなかったんだけど。可愛くて、抑えがきかなかった」

 髪をかき上げる裕貴の顔に、照れくささがにじんでいた。

「いえ、あの……大丈夫です」

(本当は今でも心臓が飛び出しそうだけどっ!)

 顔中真っ赤にした沙衣が、車から降りた。

「あの……」

 アスファルトに足をついたとたん、裕貴が言った。

「おやすみ……沙衣」

 さっき目覚める前、裕貴に呼ばれたような気がしていたが、寝ぼけていたのだと思っていた。しかし今は、はっきりと聞こえた。間違いなく、彼は〝沙衣〟と呼んだ。

「おやすみなさい」

 うれしくて思わず笑顔になった沙衣を見た裕貴は、満足そうにうなずくと車をゆっくりと発車させた。それを見えなくなるまで見送ったのだった。
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