エリート上司の過保護な独占愛
「わかりません、そんなことっ!」

 なぜだかどんどん顔が赤くなる。裕貴と絵美にからかわれながら、三人は裕貴と慎吾の行きつけの居酒屋の赤い暖簾をくぐった。

「遅いぞ、お前ら」

 店に入ると「いらっしゃいませ」の声と同時に、先に待っていた慎吾の声が聞こえた。

「ごめんね。待たせて」

「絵美~。謝らなくていいって。ほら、早くこっち来て座って」 

 絵美にべたぼれの慎吾は、彼女の顔をみるだけでデレデレしていた。
 
 沙衣はそんなふたりの正面に裕貴と並んで座った。いちゃつくふたりを置いて、裕貴が沙衣にメニューを広げた。

「俺たちは最初はビールだから、沙衣は……なに飲む?」

 さらりと〝沙衣〟と呼ばれた。まだ慣れなくて、いちいち胸の中がこそばゆい。

「えーっと、じゃあお茶を」

「了解」

 そんなふたりを、慎吾と絵美はニヤニヤと見ていた。

「いや、とうとうミスターモテ男の、裕貴に彼女ができたのかっ!」

「なんだよ、ミスターモテ男って」

 裕貴はおしぼりで手を拭きながら、嫌そうな顔をした。

「大学んときの、お前の呼び方。みんな裏ではそう呼んでたんだ」

「は? なんだよそれ」

 男同士の会話が始まり、沙衣はやり取りを見ていた。仕事中ともふたりのときとも違う裕貴の姿を見るのが楽しかった。

「まぁ、でも沙衣ちゃんにもびっくりだな。この数週間で、どんだけ綺麗になったんだ? 恋の力?」
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