エリート上司の過保護な独占愛
 慎吾とは婚約披露パーティで会って以来だった。あの日から一念発起して裕貴に振り向いてもらうために努力をしたのだ。この短時間の変化驚かれるのも無理はない。

「まぁ、私のおかげね。的確なアドバイスと熱血指導!」

「はい。大変お世話になりました」

 得意げに胸を張る絵美に、沙衣は笑顔で頭を下げた。

「俺も正直驚いた。こんなに綺麗になるなんて、本当に見違えた。まぁ……いろいろ心配になるけどな」

 裕貴は沙衣を見つめながら、口にする。こういった状況に慣れていない沙衣は、どぎまぎしてしまう。

 そんなふたりを見て、慎吾がからかうように声を上げた。

「ふたりの世界に入らないでくださーい! ビールお代わり~」

 慎吾が店員に大声で注文をした瞬間、裕貴のスマートフォンが着信を告げた。画面を見た途端、顔が真剣なものに変わる。「悪い」ひとこと皆に断りをいれて席を立った。

「あ、仕事かな。まあ、最近すごく忙しそうだから」

「それってあの、ドイツの件ですか」

 絵美がビールを飲みながらうなずいた。

「あの電話の一件で先方がいたく課長のことを気に入ったらしくて、向こうから指名してくるらしいよ。うちの海外事業課のドイツ担当者の復帰も先になりそうだからって、頼りっきり……」

「そうなんですね。うちの課の仕事だけでも大変なのに」

 沙衣は自分よりも、絵美の方が裕貴のことについて詳しいことに落ち込んだ。つき合い出して日も浅い。かたや社内の情報ツウの絵美にかなうはずはないのだが。

 ひとり小さくため息をついたとたん、裕貴が帰ってきた。
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