風の旋律
「~~くそっ!全然進まないな。」
運転席でハンドルを殴った島村先生。
後部座席で呆けている僕。
学校のすぐ脇の国道は、ラッシュ時の高速並に渋滞していた。
僕はただ、もう姿を隠そうとする空の橙色を見つめていた。
「…………上川くん?
音羽ちゃん、命に別状はないみたいだし、もう遅くなるし……
先に君を駅に送っていったほうが、」
『行きます。
僕は、音羽のところへ行きます。
連れてってください。』
窓から先生にまっすぐな視線を移した。
先生は、ミラー越しに僕を見て、再び車のハンドルを握った。
――――音羽は、工事現場の事故に巻き込まれた。
――――建設中のビルの脇を通ったとき、音羽の上に、鉄骨が落ちてきた。
――――幸い、落ちてきた鉄骨は数本で、命に別状はないらしいが、ただ…………
僕は自分の震える左手を、右手で握り締めた。