風の旋律
先生は怒って帰ってしまった。


二度と来ないだろうな。



「祐介……?」



ピアノの前で黙って座っている僕に、義母は遠慮がちに声を掛けた。



「祐介……ごめんね?

ピアノ……嫌だったの?言ってくれれば…」


『ピアノは好きだよ。』


「え…?」


『ピアノが嫌いなんじゃない。強制されるピアノを弾くのが嫌いなんだ。

…楽しくない。』


「………」


『お義母さん。

……僕、施設に帰りたい。』


「え?」


『もう……いい加減分かりますよ。

始めに感じていた、本当の親のような愛情が、今はもう消えてしまったことくらい。

もう、親としての愛はないんでしょう?

今、僕が感じているのは、僕のピアノに対する将来への期待だけです。』


「……祐…」


『帰らせてください。
僕にも……権利はありますよね……?』


「…………」




義母は静かに涙を流した。











一か月後、僕は施設に戻った。



小学校も変えた。




ピアノは……弾いていない。






もしかしたら、義母にあんなに言っておいて、僕はもう僕らしいピアノは弾けないんじゃないかって………













…………怖いんだ。

















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