風の旋律
「もう、家に着いてる?」
『うん。』
“家”という表現に少し違和感を覚えた。
2階の一番端の部屋が、僕の部屋。
1人部屋を持ってるのは、施設では僕だけ。
『突然TELなんて、どうしたの?ビックリしたよ。』
「……迷惑だった?」
僕の部屋の扉にかけた手を一瞬止めた。
『全然迷惑なんかじゃないよ。』
強引なのかと思ったら、意外に気にしてくれてるんだ。
「そっか…よかった。」
彼女の安心した声に、自然と笑みがこぼれた。
「少し…上川君と話したかったの。
別に変な意味じゃなくて!ただ、上川君みたいな人って新鮮で…。話してみたいなぁって…。」
『………うん。』
少し、彼女を可愛いと思った。
一気に話して、言い訳して、語尾が小さくなっちゃって…
言いたいことが、うまくまとめられない小さい子みたいだ。
「上川君は、作曲家では誰が好き?」
『僕はショパンが好きかな?』
本当に他愛も無い会話が続く。
彼女は気が強いけど、礼儀のあるしっかり者だった。
時間平気?って、何度も訊いてきた。
にしては、長く語るけど。
夕飯の時間が近付き、そろそろ制服を着替えなくちゃと思った時だった。
「上川君は、ピアノ好き?」