風の旋律


ネクタイを緩める手が、ピタリと止まって動かない。




“好き”?“嫌い”?



……そんなの…………




「……上川君?」


『あっごめん!なんだっけ?』



嫌な映像が、脳裏を過ぎった気がした。



ネクタイの結び目に指を入れたままの自分に気付いた。




「ねぇ……“かみかわくん”って、言いにくいから、“祐介”って呼んで良い?」


『え?』



またもや僕の手は静止する。


胸より下に届かないよ、ネクタイの結び目が。



「嫌ならいいの!ほら、カ行って言いにくいじゃない?だから……えと……」


『いいよ。祐介で。』



自然と笑みがこぼれる。


さっきまで静止していた手が、ようやくネクタイの結び目を解いた。



ベッドに腰掛けて、薄暗い部屋で彼女のリアクションを待つ。



「……ほんと?」


『うん、ほんと。
僕も“音羽”でいい?』


「うん。」




口数が少なくなった。



どうやら照れているようだ。






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