風の旋律
せっかくのチャンスを逃した僕は、一日中落ち込んでいた。
帰宅して、またいつもの時間に電話がくる。
「祐介ってお父さんのファンなの?」
第一声がこれか。
『うん!ちっちゃい時からファンだったんだ!
CD全部持ってるよ!特にショパンが好きでさ…
ごめん、語りすぎたね…つい……』
「いいわよ。お父さんにファンが多いのは分かってるし。」
『あ~~……それにしても、僕も亨さんの授業受けたかったなぁ。
僕、選択教科が美術なんだよね。』
「そんなにお父さんの授業受けたかったの?」
電話の向こうで、クスクス笑う声が聞こえる。
『そりゃそうだよ!
“世界の三上亨”さんだよ!?
そんな人の話が聞けるチャンスなんて、滅っっっ多にないよ!?
それなのに、たいしてピアノに興味のない奴等が、つまんなそうに聞くなんて失礼でしょ?
あ~~!!なんでアイツらが聞けて僕が聞けないんだぁぁ…。』
ベッドにうなだれる僕。
電話の向こうからは、笑い声は聞こえなかった。
数秒の沈黙のあと、音羽が口を開いた。