風の旋律
「………別に甘えてる訳ではありません。」
「そう?
なら、彼の音が羨ましいとか?
自分より上手いと思っちゃったとか?」
「違います。」
「はは。
そんなに威嚇しないでよ。
これ以上、詮索する気はないよ。」
「……………。」
音羽………。
何とも言えない不思議な感覚が胸に押し寄せた。
ショパンの申し子、三上音羽は、僕の音をどう思っただろう。
どんな思いで……聞いてたんだろう………。
「………ねぇ、ノクターン聴きたいな、僕。」
「……え?」
「君のノクターン、好きなんだけど。」
「………聴いたことあるんですか?」
“ある訳がない”と言いたげな声だった。
確かに音羽は、日本で演奏したこともなければ、海外での演奏も放送されたことはない。