風の旋律
気が付くと、亨さんのズボンを引っ張る小さな女の子がいた。
「お~悪かったな。
ほったらかしにしちゃって。」
長い黒髪を2つに結わいたその子は、拗ねたように頬を膨らませていた。
広瀬に気付くと、あからさまに警戒した。
「亨さん……。
すっごく威嚇されてるんですが……この子は?」
苦笑いで尋ねる広瀬。
「あはは!
ダメじゃないか睨んじゃ。
お兄さんは怖い人じゃないぞ。
お父さんのお友達だよ。バイオリンがとっても上手なんだよ。」
しゃがんで女の子に目線を合わせた亨さんが優しく微笑んだ。
「広瀬大地っていうんだ。よろしくね。
私はなんてお名前?」
広瀬も目線を合わせて微笑んだ。
女の子はオドオドしながらも口を開いた。
お父さんの腕をしっかり掴んだまま。
「みかみ……おとわ……。」
「おとわ……?ちゃん?」
首を傾げた広瀬に、亨さんが付け加えた。
「“音の羽”って書くんだよ。
ピアノを専攻しててね。とっても上手なんだ!
名前にぴったりだろう?」
嬉しそうに語る亨さん。
娘さんが音楽をするのが本当に嬉しいんだろう。
「よろしくね、おとまっ……あれっ?噛んじゃった!ごめんねっ!
おと……わ……ちゃん。って言いづらいですね。」
「ははは!よく言われるよ。
でも皆、いい名前って言ってくれるからなぁ、気に入ってるんだよ!」
「そうですね……。じゃあ、あだ名を考えてもいいですか?」