風の旋律
「あだな?」
くりっとした瞳をパチクリさせた音羽ちゃん。
警戒心は薄れてきたようだ。
お父さんにぴったりくっついていたせいでよく見えなかったけど、可愛らしいワンピースを着ている。
「うん。あだ名って分かるかな?」
興味津々という顔で大きく頷いた音羽ちゃん。
「おお!よかったな音羽。
お兄ちゃんにあだ名付けてもらえるぞ!」
お兄さんからお兄ちゃんに、少し親しげに呼び方が変わった。
お父さんに頭をくしゃっと撫でられた音羽ちゃんは、はにかんでいた。
「う~ん…。付けようとすると難しいものですね、あだ名って。」
立ち上がって片手を顎に、もう片方の手を腰に当てて考え込む広瀬。
高校生とは思えない雰囲気を醸し出していた。
落ち着いていて、成人男性独特の空気を、彼は既に持っていた。
「ん?」
ふと広瀬の目に留まったのは、音羽ちゃんのワンピースの柄。
裾には五線が描かれていて、規則には従わない自由な音符が散りばめられていた。
「音符……。」
ふと、広瀬の顔が明るくなった。
「音符!!そうだ“音符ちゃん”がいいですよ!」
「“音符”?」
興味ありげに微笑み立ち上がった亨さん。