風の旋律
「たまに帰ってるよ。
向こうには実家もあるし、お義母さんとお義父さんをずっと2人だけにしておくわけにもいかないからね。
2人とも音羽を可愛がってくれてるし。
……あいつの分の愛情を、この子に受けてもらいたいから。」
少し切ない表情で音符ちゃんを見つめた亨さん。
亨さんの奥さん、つまり音符ちゃんのお母さんは、数年前に飛行機事故で亡くなった。
日本からここに来るまでの便で。
「……そうですか。」
広瀬は気まずくなって口籠もった。
「広瀬くんは、勉強が終わったら日本に帰る予定か?
プロになる気はあるのか?」
空気を変えるように、亨さんが口を開いたが、その口調は真剣だった。
「……まだ、分かりません。」
今度は広瀬が俯いた。
「私は君の演奏を聞いて、技術を素晴らしいと思ったと同時に、感じたことがある。」
広瀬が顔を上げて亨さんを不安そうに見つめた。
空気を察してか、音符ちゃんは亨さんの後ろに隠れていた。