風の旋律
演奏を終えた広瀬は、練習室のドアが開いているのに気付いた。
「……………。」
口をあけたまま立っている少女。
広瀬をただ見つめていた。
「音符ちゃん?」
「……。」
今度は怪訝そうに見つめる音羽。
「……僕のこと覚えてる?」
表情を変えずに頷いた音羽。
「どうしてここにいるんですか?」
ここは私の場所
とでも言いたげな声。
「君のお父さんに頼まれたんだ。」
静かに立ち上がり、ズボンのポケットに手を入れて音羽に近づく広瀬。
腰を曲げて音羽に顔を近付けた。
狼狽えた音羽に、にっこりと笑顔を向けた広瀬は、
「今日から僕は、君の“先生”だ。」