風の旋律
『じゃあ、僕もそろそろ寝ますね。
おやすみなさい。』
俯いて涙を堪えている中丸さんにお辞儀をして部屋に戻った。
感謝の気持ちを素直に伝えることで、こんなに清々しい気持ちになるんだ。
また一歩、捻くれ者の自分から成長できた気がした。
いつも他人を見下して、
上辺だけ仲良くして、
はしゃぐ奴らを憎いと思っていた自分。
親なんて、顔も名前も知らない。
生きているのか死んだのかも知らない。
ただ、“ここ”の前に捨てられていた。
〈ゆうすけ〉
と書かれた紙を握って。
養子縁組の家からも逃げてきた。
ピアノが出来ると知ってから、ピアノ以外も全てのことを強要してきた。
“ピアノで成功すれば、お父さんの跡取りもしなくていい”
とさえ言われた。
護ってくれる親のいない僕は、もはや“道具”だった。