御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
当然、ひどく悪いことをしているような気になってくる。居心地が悪いし申し訳ない。
早くここに自分がいることを知らせた方がいいのではないか。わざとらしく大きな音を立てて寝返りでも打ってみようかと思ったところで、始の携帯が鳴った。
「――はい。ああ……ユキ……?」
怠そうな口調で応答する。
「ん……今、会社。ちょっと仮眠しようと思って……ああ……それでね」
ユキ――というのは、女性だろうか。彼女だろうか。
彼が電話で話し始めたことで、早穂子はタイミングを見失い、むしろ身動きが取れなくなってしまった。
「俺の様子が気になった? ふふ……そっか……やっぱりユキはコワモテなのに優しいな……ばか、ふざけてないって……ほんと……」
始はおだやかに相槌を打つ。
(ユキ……さん、コワモテ……?)
とっつきにくいという感じの意味だろうか。頭の中では“?”が浮かぶ。だがそれから、
「大丈夫だよ……死なないって……死ねないよ……うん……」
(!?)
物騒な言葉が飛び出してきて、早穂子の心臓は大きく跳ね上がった。