御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

(えっ、し、死ぬ? 死ねない? えっ、どういうこと!?)

「俺もいつまでも子供じゃないんだからさ……うん。じゃあおやすみ。またな……」

驚き戸惑う早穂子をよそに、始はどこかおどけるようにつぶやいて通話を切ると、パタンとシーツに手の甲を下ろして、またため息をついた。

(電話、終わった……?)

早穂子は気配を殺したまま、少し離れたところに眠る始の様子をうかがう。
それからまもなくして、すう、と始の寝息が聞こえ始める。

(寝た……よね)

死ぬ云々はきっと激務の例えだったのだろう。

そう、早穂子は自分に言い聞かせる。

とりあえずいつまでもここにはいられない。今のうちにここを出て行くしかない。

早穂子はゆっくりと体を起こし荷物をまとめると、そのまま音を立てずにそろり、そろりとレストルームの入り口へと向かったのだが――。そこでガシャン、となにかが床に落ちる音がした。

「っ……」

 一瞬自分がバッグの中身を落としたのかと焦ったが、そうではなかった。

「もしかして……」

なんとなく思い至ることがあった早穂子は、くるりときびすを返して始が眠るベッドへ向かい、仕切りの隙間から体を滑り込ませて、床にしゃがみこんだ。

< 101 / 276 >

この作品をシェア

pagetop