御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「あった……」
やはり先ほどの音は、始のスマホが床に落ちた音だった。
きっと寝落ちした瞬間に、彼の手から滑り落ちてしまったのだろう。
早穂子はスマホを手に取って、反対側を向き眠っている始の枕元にそれを置く。
大事なものだから手元になければ困るだろう。
ただその一心だけだったが、立ち去ろうとした一瞬、始の顔が目に入る。
光の加減かもしれないが、目の下にクマのような陰りが見えた気がした。
(疲れたって、言ってたな……)
仕事だろうか。それともプライベートのことだろうか。
普段はそんなまったくそぶりを見せないスーパーマンのように思っていたから、余計気になってしまう。きっと自分のような凡人の百倍は日々の苦労も多いだろう。
早穂子は背中のあたりで丸まっていた毛布を軽く持ち上げて、起こさないようにそっと肩にかける。
(盗み聞きするつもりはなかったんですけど……ごめんなさい。ゆっくりやすんでくださいね……)
そして立ち去ろうとした瞬間、
「――待って」
始が寝返りを打ち、早穂子はひっくり返りそうなくらい驚いてしまった。
慌てて仕切りの向こうに逃げて、見えないにもかかわらずベッドに向かって頭を下げていた。