御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
確かに頭の先に感じる始の吐息は熱かった。だが始の口から飛び出すのは基本軽口だ。
冗談か本気かいまいち判別がつかない。
「でもそろそろ時間だからなぁ……いちゃいちゃしたいけど……うーん……」
彼の言うとおり、気が付けば時計の針は夕方の五時を回っていた。
バッカスの会は六時スタートらしいので、確かにもうそういうことをしている時間はないのである。
「大変っ、さすがに準備しないと間に合わないですっ……!」
「君はミロのビーナスのコスプレということにしたらどう? きっと誰もが君の美しさにひざまずくよ」
妙にまじめな顔をして言われてしまったが、とんでもない。
「もうっ、それってただの裸じゃないですかっ……!」
早穂子は笑って始の胸を押し返すと、足元でくしゃくしゃになっていたシーツをひっぱりあげ、体に巻き付けてベッドから降りる。
「ああ、俺のビーナスが……」
始が肩をすくめて、つまらなさそうな声を出す。
だが時間がないのは本当だ。一分一秒でも惜しい。
「ごめんなさい、すぐに準備しますね」
早穂子はそのままバスルームへと向かっていった。
バッカスの会には涼音以外にも女性がいるだろう。
(少しでもきれいにしたい……他の女性たちの全然足元に及ばなくても、少しでも……)
それは早穂子の切ない女心だった。