御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

「あ、はい。そうです」

早穂子はこくりとうなずいた。

カノーロは銀座に本店を構える、日本を代表する靴とバッグのメーカーだ。
お手頃のものから高級品まで、ベーシックで品質の良い商品が揃っているので早穂子も好きでよく買っていた。

「シロはカノーロの跡取り息子なんだよ」

始にそう言われて、ああ、と早穂子はうなずいた。

「手入れをして、大事に履いてくださっているようで嬉しいです」

白臣は穏やかに微笑んで目を細める。
その顔は本当に嬉しそうで、彼が自社の靴を愛していることがヒシヒシと伝わってくるようだった。

「そんな。とんでもないです。ありがとうございます」

早穂子も恐縮しながら会釈する。その会話でなんとなくなごやかな雰囲気になった三人で、窓際に置いてあるソファへと移動した。

「そういえば、基(もとい)は今年も来れないんですか? 姿がないようですが」

白臣が周囲を見回し、始に視線を向ける。
それを受けて始はクスッと笑って肩を竦めた。

「別にご両親に勘当されたわけじゃない。帰ってこようと思えば帰れるんだろうけど……あいつ、いつも極端だからな。成果を出すまでは帰らないと決めたんなら、そうなんだろう」
「なるほど……。彼らしいですね。会えないのは少し寂しいですが」
「湊は、あと一年もすれば戻ってくると言ってたけどね」

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