御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

「一年か……。なるほど、周囲は成果を出すには五年はかかりそうだと聞いていましたが、彼がそう言うんなら、そうなんでしょう」
「基はエネルギーの塊みたいな男だからなぁ……やりとげるだろうね」

どこか懐かしそうにそう言い、それから隣に座る早穂子にちらりと目をやる。

「基っていうのは、エール化粧品の御曹司のことだよ。海外展開プロジェクトのリーダーとして世界中を飛び回ってる」

エール化粧品は、日本有数の化粧品メーカーだ。どうやら彼もまたバッカスの会の一員らしい。

「大変な激務なんでしょうね」

世界中を飛び回り、成果を出すのに五年はかかると言われるようなプロジェクトのリーダーであれば、それこそ帰国などなかなか難しいのかもしれないと思ったのだが。それを聞いて始はとても優しい顔をして、にっこりと微笑んだ。

「ほんとはね、彼は父親や周囲を説得させるためにやり始めたことなんだ」
「説得?」
「そう。惚れた女性と一緒になるためにね。すごいよね……尊敬する」

始はそう言って目を伏せた。

長いまつ毛の奥の瞳は、どこか愁いを帯びている。

(始さん……?)

耳で聞いた言葉以上の重みを感じて、早穂子の胸はざわついたのだった。

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