御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
ゆずのおすすめということで向かった先は、会社からほど近いカジュアルなイタリアンレストランだった。
「いらっしゃいませ! お好きな席にどうぞ~!」
ウエイトレスの女の子が、ハキハキとした口調でアンティーク風のドアを開ける。
早い時間なので、席には余裕があるようだ。
「一番奥の席にしよ」
ゆずが跳ねるように席に腰を下ろし、早穂子もあとに続いた。
「いい雰囲気だね」
早穂子はワクワクしながら、店内を見回す。
店内は、L字型のカウンター席と、ふたりテーブルが二つ、四人テーブルがふたつあり、白い壁とダークブラウンのインテリアがクラシカルで、どこか懐かしく落ち着いた雰囲気である。
常連らしい客がカウンターでワインとピザを食べているのを見ると、途端にお腹がすいてきた。
「でしょー。営業部の子と一度来たことあるんだ。結構ボリュームがあるから、シェアして食べようね」
通されたテーブル席でメニューを広げて、ふたりで覗き込んで、あれこれと相談する。
「絶対食べるべきなのは、生ハム盛り合わせに蛸のカルパッチョ……あと、パスタのおすすめはボロネーゼとジェノベーゼなんだけど、どっちにする?」
「私はボロネーゼがいいな」
「じゃあ、そうしよ! すいませーん! 注文いいですかー?」
ゆずがさっと手を挙げて店員を呼ぶ。
さらに追加で、白ワインをグラスで頼むことにした。
「かんぱーい」
「乾杯」
生ハムと一緒に運ばれてきたワインのグラスをちょっとだけ合わせて、唇に付ける。よく冷えた白ワインが喉を通る瞬間は、なんとも幸せな気分になる。
(人間って意外に単純よね……)
美味しいものを食べると、やはり元気が出てくるというものだ。