御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

それからふたりは主に仕事のこと――愚痴というほどではないが、取引先でのちょっとしたハプニングなどを笑い話にしながら、グラスを重ねる。

一杯のつもりが二杯、三杯となったところで、
「こっちボトル開けたんだけど、よかったら一緒に飲まない?」
と、自分達より後から来たらしい、隣のテーブルのスーツの男性たちに声を掛けられた。

年のころは二十代後半くらいだろうか。

同世代の、きちんとしたスーツ姿のさわやかな男子の二人組である。彼らが着ているスーツや靴の雰囲気から、一目でアパレル関係と思わせる雰囲気があった。

「えっ、いいんですか?」

ゆずが目を輝かせ、それから正面に座る早穂子に視線を向けた。

彼女の目の奥から『いいよね? いいと言って!』という熱い意志を感じる。

ついさっき、「彼氏が欲しいとかそれ以前の問題なの、とにかくときめきが欲しい!」という愚痴を聞いたばかりだ。

勿論、彼女の恋のチャンスを奪うつもりはないので、早穂子は苦笑しつつもうなずいた。
< 143 / 276 >

この作品をシェア

pagetop