御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
ふたりテーブルに座っていたので、店員の了解を取ってテーブルをくっつける。
どこで働いているのかという流れから、名刺を交換することになり、営業職のゆずが二人組に自分の名刺を手渡した。
ゆずの隣にはベリーショートのスポーツマンタイプが座り、早穂子の隣にはすっきりとした一重瞼のクールな印象を受ける眼鏡男子が座った。
「山邑リゾートなんだ。ふたりとも?」
ゆずの名刺を見て、眼鏡男子が早穂子に問いかける。
「はい。私は総務なので名刺を持ってなくて。ごめんなさい」
「じゃあ俺の名刺だけでも渡していいかな」
眼鏡男子から差し出された名刺を受け取ると、社名に『canoro』と記載されていた。
「もしかして、靴とバッグの『カノーロ』?」
カノーロといえば、バッカスの会で出会った、槇白臣(まきあきおみ)の顔が自然と思い浮かぶ。
彼はカノーロの跡継ぎだと、始が言っていた。
(シロ……って、始さんに呼ばれていたっけ)
だがさすがに、ここで彼の名を出すわけにはいかない。
なぜ知っているのか説明するのが難しいし、なにより槙白臣は始の友人であって、自分の友人ではないのだ。
(知らないふりをしておこう)
早穂子は自分にそう言い聞かせながら、名刺を見つめた。