御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
(髪、少し伸びたみたい……)
あまりじろじろ見ては失礼だとわかってはいるが、久しぶりに見た始は、ただでさえすごい色気が、さらに増しているように感じた。
彼の前を通り過ぎる社員たちは、当然の様にペコッと会釈したり、挨拶をしながら出口へと向かう。始もそれを受けて、軽く手をあげたり、うなずいたりしていた。
(私も『おつかれさまです』くらい言いたいな。せめて目線だけでも合わせられたら……)
彼の視界に入りたい。
たとえ言葉がなくてもいい。好きだと熱っぽい目で見つめてくれたら、それだけで早穂子は元気を取り戻せる。
(ほんの少しだけでいいから……私を見てほしい)
早穂子は、切ない思いに駆られてソファーから立ち上がる。
すると始は人の邪魔にならないように壁際に移動しつつ、スマホを耳に当て本格的に通話を始めてしまった。
(ああ~!)
ああなっては、挨拶どころではない。
早穂子は心の中で叫ぶが、どうしようもない。
せめて、もう少し早く勇気を出せていたら……。後悔先に立たずだ。
(私のバカバカ~……!!!)
そうやって早穂子が、ひとり心の中でもだもだしていると、
「ねぇ、副社長ってさ、ああやって立ってるだけで、ファッション誌のコーディネートコーナーみたいだよね」
ゆずが突然、不思議なことを口にした。