御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「ほら、よくファッション誌の中にあるじゃない。二週間のコーディネートが物語風になってるやつ。女の子が素敵な男性と出会って、最終的にくっついてハッピーエンド、みたいな。副社長、その相手役みたい」
ゆずがクスクスと笑う。
確かに始はモデルばりの色男で、ああやってオフィスビルの中に立っているだけでも、なにかの撮影だろうかと思わせるような雰囲気がある。
電話相手でも、今目の前に話し相手がいるかのように、にこやかに微笑んでいる姿は、雑誌から抜け出したかのようだ。
「まぁ、実際、副社長はモデルみたいな美女とお付き合いしてるんだろうけど。はぁ……なぜ私は美女に生まれなかったのか。前世の行いかなぁ……。副社長と自分の間に横たわる現実の差がつらいわ~」
ゆずはそうやってしみじみと、けれど冗談めかして笑った後、腕時計に目を落とす。
「じゃあ、そろそろ行く?」
「あ……うん。そうだね」
いつまでもここで始を眺めているわけにもいかない。
後ろ髪引かれる思いだが早穂子は笑顔を作ってうなずいた。
「よし、れっつごー!」
元気いっぱいなゆずに腕を取られて歩き出した早穂子は、『最後にもう一度』と、始を肩越しに振り返ろうとしたのだが――。