御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
その瞬間、すべての時が停まった気がした。
(今……私を見た?)
早穂子は驚き、その場に縫い留められたように動けなくなるが、始と涼音はそのままエレベーターの中へと吸い込まれていく。
「あの美人、副社長のお客さんだったんだ……へー」
ゆずはどうでもよさそうに肩をすくめて、それから隣の早穂子の顔を見上げて、
「――蓮杖さん、どうしたの?」
と、驚きつつも、声を潜めてささやく。
(どうしたって、なに……?)
胸の奥が、まるで鉛でも飲み込んだように重い。
「……え?」
ぼんやりした思考の中、ゆずの顔を見下ろした瞬間、なぜか世界の輪郭がにじみ、よく見えなくなった。
おかしいな……と、瞬きすると、頬に熱いものが流れ落ちる。
ゆずがハッと息をのんだ。
自分が泣いているのだと気が付いたのは、そんな彼女に腕を引かれて会社の外に出てからだった――。