御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
涙のわけ

「なるほど……なるほど……はぁ……」

早穂子の長い話を聞き終えた後、ゆずは、ため息ともうめき声ともつかない声を吐くと、テーブルの上ですっかり冷たくなったコーヒーの入ったマグカップを、ぎゅっと握りしめる。

「あの……ごめんね、長々と……」

早穂子は軽く頭を下げる。

ゆずは早穂子が話している間、一度も口を挟まなかった。
ただ、しどろもどろに話す早穂子の話を、黙って聞いていただけだった。
話し終えてようやく、早穂子はほっと一息ついた気がしたが、ゆずはいったいどう思っただろう。

彼女の顔を見つめると、

「いや、いいよ。こちらこそ無理やり聞き出したんじゃないかって……気になっちゃったけど」

ゆずは少し困ったように笑って、それからしゅん、と眉根を下げて、コーヒーカップに手をかけた。

ここは早穂子の部屋だ。小さなダイニングテーブルに向きあって座っている。

ゆずは急に泣き出してしまった早穂子を連れて、人目につかないよう人通りの少ない会社の裏まで回り、辛抱強く泣き止むのを待ってくれた。
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