御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

早穂子の部屋へと一緒に帰ったのだが、落ち込む早穂子の様子から、突然の涙の理由も、ゆずに感づかれてしまったのだ。

「副社長のこと、好きなの?」

そう尋ねられて、早穂子は震えながらうなずいた。

「ううん……。無理やりじゃないよ。私が……話したかったんだと思う」

それはゆずを気遣ってのセリフではない。
早穂子の本心だ。

こうやって話してみてわかった.
本当は誰かに聞いてもらいたかったのだ。

自分の心の中にある、わだかまりや不安――少しずつ心に積もっていた薄暗い気持ちを離して、楽になりたかった。

「今更気が付いたの。私、本当は死ぬほど面倒で重い女だったんだって……」

早穂子は小さく、くすっと笑って、両手で包み込むように持ったマグカップの縁を指で撫でる。

「彼のことが好きで、本当は彼の特別になりたくてたまらないくせに、物分かりのいい女を演じてた。踏み込ませない彼に苛立っていたくせに、嫌われるのが怖くて、強く出られなかった……」

自分で改めて口にすると、重すぎてイヤになるが、それが素直な気持ちだった。
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