御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
支払いは鳥飼が済ませてくれた。
早穂子は割り勘にしようと言ったのだが、
「付き合わせたから」
と、鳥飼は早穂子からお金を受け取ってくれなかった。だが今度は、鳥飼の兄が、「弟から受け取れるかよ」と渋っていた。
すったもんだのすえ、結局、鳥飼は「来づらくなるから」と無理やりお金を押し付けて、なんとか店を出る。
「これお土産」
扉の前で、マリィが鳥飼にビニール袋を手渡してきた。
そして彼女は、ちょっと恥ずかしそうにささやいた。
「あのね……和弘君には言っちゃうけど。実は、赤ちゃんができたんだ」
「――」
その一瞬、鳥飼は驚いたように息をのみ、それからゆっくりと穏やかに表情を和らげる。
「そうか。おめでとう」
と微笑みながらビニール袋を受け取った。
それから少しだけまぶしそうに、なにか言いたそうにマリィを見つめたが、結局それ以上なにも言わなかった。
「カズ、そういうことでまぁ……なんだ。たまには顔出してくれよ。お前、せっかく東京にいるのに全然遊びに来てくれないし……」
鳥飼の兄がマリィの肩を抱いて、少し寂しそうな顔をする。マリィも同意と言わんばかりにうなずいた。