御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
ふと、天使のようなマリィの顔が浮かぶ。
(あれって……もしかして)
だがいくらなんでも、口に出して聞けるような内容ではない。
当たっていても、外れていても、シャレにならないだろう。
(変なこと言うのはやめよう……)
人にはそれぞれ事情があるのだ。
早穂子はぎゅっと唇を引き結んで、何事もなかったかのような表情を作る。
「ほんとにおいしかったなぁ~」
能天気な言葉を口にすることしかできなかった。
ふたりで電車に乗ってしばらくして。鳥飼がハッとした表情で隣に座る早穂子の顔を見つめた。
「あ、悪い……」
たった今早穂子の存在に気が付いたような表情に、早穂子はクスクスと笑う。
「私のこと忘れてたでしょ」
「――ごめん」
鳥飼が苦々しい表情で、眼鏡を指で押し上げる。
「いいよ、別に。気にしないで」
どうやら本気で落ち込んでいるらしい。背中が丸まっている。
「いやほんと……会ったばかりの君に甘えてばかりだな」
甘えて――という言葉で、納得がいった。