御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

聞いているこちらが辛くなるような、苦しそうな声だった。

「そうですね……」

だが愛には形がない。

親子、友人、恋人、夫婦。
人の数だけ愛の形も色も変わるだろう。正解などないと、きっとないのだ。

「だったら……俺はどうしたらいいの……」

耳元で響く始の声から力が抜ける。

体は大きいのに、まるで迷子の小さな男の子みたいな彼の背中を、早穂子は抱きしめる。

「それは……始さんが、自分で探して、答えを出さないといけないんだと思います」

誰にも未来のことはわからない。
今を生きる自分達にできることは、その時に後悔しないと思える道を選ぶこと、前に踏み出す勇気を持つことだけだ。

「……そうだね」

始の腕の力が抜けて、だらりと下に落ちる。

「俺……本当に、君のこと、好きなんだよ」
「始さん……」

耳元でささやかれる甘い声に、早穂子は思わず苦笑いしてしまった。
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