御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「さようなら……」

早穂子はつぶやく。

始が部屋に残って早穂子の帰りを待っていたのは、『ありがとう』と言うためだったのだ。

人はそれを残酷だと言うかもしれないが、早穂子はやっぱり彼は優しい人だと思う。

(だって私、これを一生の思い出にしてしまうもの……)

彼に恋をした。そして精いっぱい、愛した。

ずっと淡泊な性格をしていると、世の中を冷めた目で見ていると思っていたけれど、自分にもこんなふうに人を愛せる、熱い炎のような感情があったのだ。

(だったら、これでいいよね……)

そう思うのに――。

「……っ……」

ポロポロと、早穂子の目から涙が零れ落ちる。

「ひっく……ううっ……」

両手の甲で頬を伝う涙をぬぐいながら、早穂子はしゃくりあげる。

勿論本当は早穂子だって、始に愛されたかった。
思い、思われたかった。

「ううっ……うっ、っ……」

涙は当分止まりそうになったが、早穂子はそのまま涙を流れるままにした。

自分の気持ちを否定しない。悲しいのは当然なのだから、誤魔化さない。

それが彼とのお別れにふさわしいと思ったのだ。

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