御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

そう、そういう流れで早穂子は始と一夜をともにして――

そして目を覚ました始に、また抱かれてしまった。


早穂子は始を起こさないようにそっとベッドから抜け出して、バスルームで着ていたスーツを身にまとう。

時計を見れば、そろそろ朝の五時だ。


偶然に偶然が重なって、山邑始とこういうことになってしまったわけだが、一緒に朝を迎える気は早穂子にはない。


たしかに抱き合っているときは楽しかったし……とても気持ちがよかった。

とろけるように愛されて、そのままぐっすりと眠ってしまったし、幸せな気分だった。

けれど時間が経って、朝になれば、目を覚ました始と向き合うのは、【現実】だ。


山邑始は死ぬほどモテる。

遊び人という噂も聞いている。

さすがに社員に手を出すという噂は聞いたことはなかったので、今回のことは驚いてしまったが、始は

「俺が会社の人間だってことを忘れて」

と言ったことを早穂子は覚えていた。


(要するに、一夜の遊びって自覚してねってことだよね……)


別に悲しくはない。
寂しくはあるが、当然だと思う。


(目が覚めたときに夢だと思うくらい、私だって信じられなかったんだもの……)


朝が来る。夢には終わりがある。


早穂子は身支度を整えた後、ベッドでスヤスヤと眠る始の顔をじっと見下ろした。


(ありがとうございます……っていうのも変だけど……)


薬も飲まず、久しぶりに安心して眠れたのは事実だし、始のおかげだ。


早穂子は細心の注意を払いながら、眠る始の額にキスをして、それからホテルの部屋を出たのだった。




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