御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
夢で終わりにする気はないよ
始発が動いていたので、電車で帰宅することにした。
ちなみに早穂子は学生時代からずっと同じ町に住んでいる。
社会人になってワンルームから1DKに変え、最上階に引越しはしたが、住んでいるのも同じマンションだ。
『カーッ!』
頭上でカラスが鳴いている。
顔見知りばかりの商店街も、土日のこの時間はさすがに人通りがない。
地元の田舎の風景と少し似ているこの町が早穂子は好きだった。
「ただいまー」
どこからか聞こえるカラスの鳴き声に返事をしながら、早穂子は部屋のドアを開ける。
ふんわりと香るルームフレグランスの香りに、家に帰ってきたんだという実感が湧いてきた。
今日は土曜日だ。
今日と明日の二日もあれば、リフレッシュして、気分を切り替えられるだろう。
(山邑さんとの一夜も、夢だと割り切れる……はず)
そう思うのだが……。
スーツを脱いでリラックスウェアに着替えた時――。
出かけにシャワーを浴びたはずなのに、ふわりと自分から山邑始の香水の香りがしたような気がして、着替える手が止まってしまった。