御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
いや、それだけではない。
キスをするときに傾ける頬の角度や、長いまつ毛から覗く紅茶色の目。
息遣い。匂い、ため息と、触れ合った肌の感触。
次々と走馬灯のように浮かんでは消えて、早穂子の心をぎゅっと締め付ける。
部屋を出るときに、ついどうしても去りがたく、これで最後だからと寝顔を見てしまったのがいけなかったのだろうか。
(ああ、まずい……っ!)
早穂子は大きく息を吸い込んで、勢いよく声を出す。
「オッケー、オッケー、なんともない~♪」
そう自分に言い聞かせて、台所で朝食の準備を始めた。
お米をといで炊飯器にセット。
それと大根のお味噌汁と、だしまき玉子を作った。
近所の商店街の青果店は、だいこんを葉っぱ付きで売ってくれるので、落とした葉はじゃこと炒める。
ジュージューと、いい香りがしてきた。
それらを手早くお気に入りの食器に盛り付け、ダイニングのテーブルの上に乗せる。
そしてさぁ、食べようかと手を合わせたところで、ピンポーンと、チャイムが鳴った。