御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「見惚れてましたね……」
否定する言葉も思いつかず、正直にうなずいた。
「アハハ……きみ、なかなか正直者だよね」
若干からかわれているような気がしたが、仕方ない。
「あの、それよりも今からどこに行くんでしょうか」
「きみが行ってみたいって言ってたところ。波佐見焼~。車で一時間くらいで着くからね」
「ええっ!?」
一瞬なにを言われたのかわからなかったが、確かに食器のくだりでそんな会話をした。
だが、あくまでもさらっとした会話の流れで、口にした早穂子自身忘れていたのである。
なのでまさかそれで長崎に来たとは到底今の今まで思いつかず、開いた口がふさがらない。
「あそこまで行くと嬉野温泉が近いんだ。今晩はそのあたりに泊まろうか」
「とっ、とまっ!?」
始は泊まるなど一言も言わなかったし、早穂子はまったくそんな準備もしていない。
そもそも飛行機に乗るときだって、あまりにもサクサクと始が手配を進めてしまったので、搭乗する直前の電光掲示板を見てやっと長崎に行くことに気が付いたくらいだ。
「なんで教えてくれないんですか!?」
「それはきみの驚く顔が見たかったから」
ちっとも悪びれた様子がないその言葉に、早穂子は言葉を失った。
始は満足したように軽やかに笑って、アクセルを踏み込んだ。