御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
体が近づくと、始からいい匂いがする。
強い香水ではない。
上品な、フローラルな香りだ。
「うちは履歴書も職務経歴書も手書き禁止だから、知らなかったよ」
低い声は甘く、耳元でささやかれるだけでソワソワするし、始にじっと手元を見つめられているとわかると、急に鼓動が早まった。
(ど……どうしよう、緊張してきちゃった……手元に集中せねば!)
ドキドキしながらなんとか伝票に住所を記入し、そして始の家に送るよう新しい伝票に手を伸ばしたのだが、始は早穂子が書き終えた伝票を取って、カウンターの中にいる店員に差し出した。
「すみません、これ配送お願いします」
伝票は一枚しか書いていない。
このままでは始のお茶碗が早穂子のところに届くことになる。
「これで美味しいごはんたくさん食べさせてね?」
カウンターに手をついて、始がにっこりしながら早穂子を振り返った。
一瞬なにを言われたのかわからなかったが、始の意図することが遅れて理解できた。