御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

日本有数の化粧品会社の役員秘書を勤めている、かなりできる男だ。

ちなみに湊の上司であるエール化粧品の御曹司、不二基(ふじもとい)も、始の後輩で親しい間柄だった。


「誰かれ構わずじゃないよ。お前だから言ってるんだって」
「だからいりませんって……」


湊は眼鏡の縁を指で押し上げて、それからふうっと息を吐く。


「あなたは俺にまで好かれようとするんだから……」
「へぇへぇ……」


湊は始を先輩として尊重はしてくれるが、始のコミュニケーションの取り方に異議があるようだった。

始と湊は窓辺から応接セットに移動して、ローテーブルを挟んで向かい合って腰を下ろす。


「そういえば基は大丈夫なの?」


エール化粧品の御曹司は、日本を飛び出し、海外を飛びまわっている。

惚れた女と一緒になるために、親の反対を真正面から跳ね返す、実力で自分を認めさせるという、まっとうな手段を取ったらしい。


「大丈夫ですよ。なにしろ基ですから。まぁ、あと一年もすれば帰ってくるんじゃないんですか?」


あっけらかんとした口調だが、それは深い信頼関係の証ともいえる。


「ふぅん……今はどこに?」
「ニューヨークですね」


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