御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

「そりゃ、残業しないほうがいいって言ってるけど、謝らなくてもいいよ」


始はふっと笑って、そのままエレベーターの前で棒のように立っている早穂子に近付いた。


「……あの」


早穂子はじっと無言で見つめてくる始の視線に、困ったように左右を見回していたが――

ぎゅっとなにかを決意するように唇をかみしめた後、顔を上げ、始をまっすぐに見つめ返してきた。


「お茶碗、届きました……なので、いつかごはんを食べに来てください」
「行く」
「えっ?」


早穂子が驚いたように目を丸くした。

どうやら始が即答するという意識がなかったらしい。


「っていうかさ、今から行く」
「い、いまっ?」
「なんで自ら誘っておいて、困ってるの?」


始はクスクスと笑いながら、「冷蔵庫……あ、えっと……」と、冷蔵庫の中身を必死で思い出そうとしている早穂子を見下ろした。


(この子と一緒にいると、少し楽だ……)


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