御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「どうぞ」
そしてまたキッチンへと向かい合う。
(きびきびしてるなぁ……)
始はてきぱきと動く早穂子の背中を眺めつつ、急須を持ち上げ、茶碗に注いだ。
早穂子はお米を研ぎ終えると、右手の冷蔵庫からあれこれと取り出して、ザクザクと切り始める。
「なにか俺が手伝うことって――」
「ありません」
ぴしゃっと言われて、始はまた妙におかしくなった。
本人は気が付いていないだろうが、始と向き合っているときは基本困ったような顔をしているのに、たまにお姉さんぽくなる瞬間があって、そのギャップがたまらない。
(きっと妹か弟がいるタイプだな……)
とは言いつつも、さすがに黙って椅子に座っているのも退屈だ。
そっと音を立てないよう椅子から立ち上がり、一心不乱にまな板の上で包丁を動かす早穂子の後ろに立って、手元を覗き込んだ。